WLB の実現度と生活要因の大切さ
―仕事と家庭生活の両立ストレスを用いた考察―
孫 亜文 リクルートワークス研究所・アシスタントリサーチャー
本研究では,ワーク・ライフ・バランス(WLB)の実現には,仕事だけでなく生活への取り組みも重要である と考え,ワーク・ライフ・バランスの実現度を高めるためには,どのような生活面の課題があるかを分析した。 分析結果は,既存の取り組みは仕事しやすい環境づくりという点で重要であり,今後多様な働き方や生活スタイ ルへの理解を深めることで,さらなるワーク・ライフ・バランスの実現へ近づけることを示唆している。
キーワード: ワーク・ライフ・バランス,生活,仕事と家庭生活の両立ストレス,両立ストレスの原因
目次
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.ワーク・ライフ・バランスの測り方
Ⅲ.分析方法
Ⅳ.分析結果
Ⅳ-1.ワーク・ライフ・バランスの実現度が高い人と
は
Ⅳ-2.ワーク・ライフ・バランスの実現度が高い生活
面の要素とは
Ⅴ.おわりに
Ⅰ.はじめに
2007年12月18日,官民トップ会議において,
「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス) 憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指 針」が策定された。これ以降,さまざまな企業が 「ワーク・ライフ・バランスの実現」に向けたさ まざまな取り組みを行ってきている。日本経済団
体連合会が2015年に企業向けに行ったアンケー
ト調査によると,憲章と指針に則った多面的な取 り組みがなされていることがわかる。
たとえば,ワーク・ライフ・バランス推進施策
として,回答企業273社のうち67.4%の企業が「法
定を上回る両立支援制度(育児・介護休業など)」
を行っている。また,長時間労働削減と年次有給
休暇の取得促進として,76.2%の企業が「連続休
暇の取得促進(年末年始,GW,夏季など)」を行
い,63.4%の企業が「時間外労働の事前申告制」
を設けている。他にも,男性の仕事と育児・子育
て支援として,77.3%の企業が「配偶者出産休暇
の付与」を実施し,仕事と介護の両立支援として,
「法定を上回る介護休業制度(68.9%)」や「法定
を上回る介護短時間勤務制度(55.3%)」や「法定
を上回る介護休暇制度(42.1%)」を設けている。
これら企業の取り組みは,仕事と生活のうち, 主に仕事の負担軽減を目的としており,憲章と行 動指針でも生活への取り組みについては明言され ていない。その理由として,人々の生活は人々の 働き方よりも多様であり,容易に施策を講じられ
ないことが挙げられるだろう。また,OECDによ
ると,日本のフルタイム労働者は,OECD諸国平
均(15時間)を下回る約14.9時間を余暇(Leisure)
に費やしている1。これは,日本が海外諸国に比べ
では,長時間労働の改善や男性の育児支援や介 護休業取得の促進などによって,生活に費やす時 間が増えたり,育児をする男性が増えたり,介護 をする時間が増えたりしたとき,人々にとって, それはワーク・ライフ・バランスの実現となるの だろうか。
内閣府の「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・ バランス)憲章」では,ワーク・ライフ・バラン
スを,「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じ
ながら働き,仕事上の責任を果たすとともに,家 庭や地域生活などにおいても,子育て期,中高年 期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が 選択・実現できる社会」と定義している。また, 男女共同参画会議の「仕事と生活の調和(ワーク・ ライフ・バランス)に関する専門調査会」では, 「老若男女誰もが,仕事,家庭生活,地域生活, 個人の自己啓発など,様々な活動について,自ら 希望するバランスで展開できる状態である」と定 義している。これらの定義から,ワーク・ライフ・ バランスとは,人々が「希望した」働き方や生活 を「選択できている」状態であると理解できるだ ろう。そのためには,仕事だけではなく生活にお いても「希望を選択できる」ような取り組みが, 同時に必要ではないだろうか。
たとえば,長時間労働が改善されたとき,その 人が既婚者であれば,今まで仕事を理由にパート ナー・家族に任せていた家事を行わざるを得なく なるかもしれない。同様に,育児休業や介護休業 の取得が以前よりも容易になったとき,今まで仕 事に費やしていた時間は,そのまま育児や介護に 費やす時間になるかもしれない。仕事と生活から 感じる満足感や負担感は必ずしも代替的ではない にしても,仕事への取り組みによって,時間が仕 事から生活へシフトしたとき,満足感や負担感を 感じる元も仕事から生活へシフトするのではない だろうか。つまり,ワーク・ライフ・バランスに は仕事だけではなく生活へのアプローチも重要で あり,仕事と生活のそれぞれから感じる満足感や 負担感を同時に増やしたり減らしたりすることが
ワーク・ライフ・バランスの実現に繋がると考え る。生活へのアプローチの必要性は,ワーク・ラ イフ・バランスに関する先行研究をまとめたレビ
ュー研究でも,述べられている(Ozbilgin et al.
2011)。
そこで,本稿では,全国規模のインターネット 調査を用いて,ワーク・ライフ・バランスの実現 には仕事と同じだけ生活も重要であると考え,ど のような生活の課題があるのかを分析し,考察し ていく。
Ⅱ.ワーク・ライフ・バランスの測り方
生活の課題について考える前に,ワーク・ライ フ・バランスはどのように把握すればいいのだろ うか。
本稿でのワーク・ライフ・バランスは,前述し
た定義に則り,「人々が希望した働き方や生活を選
択できている状態」と定義する。
OECD によって開発された指標に,暮らしの
11 の分野について,38 か国間で比較することが
可能な「より良い暮らし指標(Better Life Index:
BLI)」がある。そのうちの1分野であるワーク・
ライフ・バランスは,(A)「1 日のうち睡眠・食
事を含む個人的な時間に費やしている平均時間」
と,(B)「1年間のうち週労働時間が55時間以上
である雇用者の割合」から算出される。この指標
は,時間という客観的側面から捉えた尺度であり,
10点をワーク・ライフ・バランスが良いとしてい
る。日本は5.4点であり,38か国中,下から5番
目と低めである。しかし,この指標は仕事と生活 の時間利用のみを用いたものであり,希望のよう な主観的な観点を含めていない点で,本稿で論じ るワーク・ライフ・バランスの定義とは乖離があ ると考える。
主観的な側面を含めたものとして,仕事と家族 の役割の両立の困難さを心理的側面から捉えた尺
度「ワーク・ファミリー・コンフリクト(WFC)」
の欠如の心理的側面を捉えるという点で重要視さ れている。多くの研究がアメリカを中心に蓄積さ
れており,メタ分析を用いた Jesse, Kotrba,
Mitchelson, Clark and Baltes (2011)の研究に
よると,WFCの原因には,「仕事のために家族を
あきらめるもの(WIF)」と「家族のために仕事
をあきらめるもの(FIW)」の二つの側面がある
ことを示している。前者は,仕事上の役割,会社 のサポート状況などから起こり,後者は,家族構 成,家族のサポート状況などから起こるとしてい る。この二つの欠如は,異なる事柄を起因として いるため,多くの研究で別々に分析されている。
日本においては,山口(2009:2010)が過剰就
業とWFCの関係について分析しており,常勤者
については,アメリカと異なり WIF を感じる割
合は男女ともに高く(25~50%),FIWを感じる
割合は有配偶女性(13%)を除き,他は3~5%で
あると示している(山口 2010)。また,アメリカ
同様女性が男性よりも家事育児負担が大きいにも かかわらず,アメリカとは異なり男女差はあまり
みられないことも示している(山口 2010)。WIF
の方がFIWよりも割合が多い点については,「仕
事も家族も同様に大切である,と考えていながら,
実際には仕事を優先せざるを得ない状況にある者
が多い」と考察している。さらに,WIF(仕事の
役割のために家族の役割を十分に果たせない)の 原因として,就業時間の影響よりも,実際の就業 時間と希望就業時間の乖離などを含む職場の柔軟 性の欠如が関連していることを示している。
WFC は,仕事と家族の役割の両立の困難さを
主観的に捉える尺度ではあるものの,互いの原因 が異なるところから起こるということを踏まえて, 別々の設問となっている。本稿で考えるワーク・
ライフ・バランスは,仕事と生活についてであり,
生活には家族の役割以外も含めているものである と考える。さらに,互いの原因が異なるところか ら起こるものの,相互に影響し合う可能性も考慮 して,同一の設問で捉えることが望ましい。 そこで,本稿では,後述する「全国就業実態パ ネル調査」の「仕事と家庭生活の両立ストレス」
をワーク・ライフ・バランスの実現度の代理指標 として用いる。
「全国就業実態パネル調査」とは,リクルート
ワークス研究所が2016年1月に行った全国規模
のインターネットモニター調査(標本調査)であ
る。全国の15歳以上の男女を対象に,前年1年
間の就業状態,生活実態,初職と前職の状況,そ して個人属性について質問している。総務省統計 局の労働力調査をもとに,性別×年齢階級別×就 業形態別×地域ブロック別×学歴別で割付を行
い,標本を抽出している。ただし,10代の労働力
人口と 65 歳以上については,実際の人数よりも
少なく割付しており,分析を行う際には付属のサ
ンプリングウェイトを用いる2。ウェイトバック集
計を行うことで,母集団を反映する結果となる。 仕事と家庭生活の両立ストレスについては,以 下の二つの設問を設けている。
① あなたは,昨年1年間,ご自分の仕事と家
庭生活の両立についてストレスを感じまし たか。
(1年間のうち,少しでも働いた人が対象)
強く感じていた
感じていた
少し感じていた
感じていなかった
全く感じていなかった
② あなたが,昨年1年間,仕事と家庭生活の
両立にストレスを感じた原因は何ですか。 あてはまるものをすべてお選びください。
(①において「強く感じていた」「感じてい
た」「少し感じていた」と回答した人が対象)
【仕事】:職場の人間関係,労働時間・
通勤時間の長さ/不規則さ,仕事内 容・責任の重さ
【家庭生活】:食事の支度,掃除や片付
者・パートナーとの性格の不一致,介 護・家族の世話,自分の時間の不足, 自分の健康・美容・加齢
【その他】(自由回答)
分析では,①をワーク・ライフ・バランスの実
現度の代理指標とし,「両立ストレスを強く感じて
いた」を「ワーク・ライフ・バランスの実現度が
低い」,「両立ストレスを全く感じていなかった」
を「ワーク・ライフ・バランスの実現度が高い」 として解釈する。
Ⅲ.分析方法
本稿では,ワーク・ライフ・バランスの実現に は仕事と同じだけ生活も重要であると考え,以下 の二つの内容について分析を行う。
1. ワーク・ライフ・バランスの実現度が高い人
はどのような人なのか。
2. ワーク・ライフ・バランスの実現度を高める
ためにはどのような「生活」面の課題がある のか。
まず,1については,両立ストレスと個人の属
性・状況の相関係数を取り,傾向をみる。それを 踏まえて,順序ロジット分析から両立ストレスを 増長・軽減する要因を把握し,どのような人が両 立ストレスを感じないのか(ワーク・ライフ・バ ランスの実現度が高いのか)を考察する。
個人の属性・状況については,全体・男女別に 以下の内容を用いる。
基本属性3:年代,配偶者有無,子ども有無,
子ども人数,未就学児有無,最終学歴
仕事4:年収,就業形態,週労働時間,有給
休暇取得率,通勤時間,仕事の柔軟性
家庭生活5:同居家族,配偶者の状況(年収,
就業形態)
「全国就業実態パネル調査」では,生活に関す る時間利用や家族情報が含まれていないため,生 活の状況を十分に把握できない。さらなる分析は 今後の課題とし,本稿では家族の協力の必要性に
ついて考察するにとどめる。
次に,2については,両立ストレスを感じてい
る男女について,両立ストレスの大きさとその原 因を用いたコレスポンデンス分析を行い,男女別 にどのような項目が両立ストレスをより感じさせ ているのか(=ワーク・ライフ・バランスの実現 度を高めるためにはどのような「生活」面の課題 があるのか)を考察する。
仕事と家庭生活の両立ストレスは,2015 年 1
年間に少しでも働いた人を対象とした設問である
ため,分析対象は20歳から64歳までの男女に限
定する。
Ⅳ.分析結果
Ⅳ-1.ワーク・ライフ・バランスの実現度が高い
人とは
ワーク・ライフ・バランスの実現度が高い人と はどのような人なのだろうか。
図表1から図表3までは,男女別の両立ストレ
スと属性・状況についての相関表である。図表 1
が基本属性について,図表2が仕事状況について,
図表3が家庭生活状況についてである。
図表1より,男女ともに,年齢が高い人,配偶
図表1 両立ストレスと基本属性の相関関係
男性 女性
【基本属性】
年齢 -0.116 -0.141
配偶者あり -0.042 -0.045
子どもあり -0.028 -0.032
子どもの人数 -0.065 -0.032
未就学児あり 0.112 0.109
最終学歴
小中学校 0.025 0.040
高校 0.015 0.025
高専・専門・短大 0.016
-大学・大学院 -0.026 -0.031
詳細は注釈参照。
図表2 両立ストレスと仕事状況の相関関係
男性 女性
【仕事】
本人の年収 -0.038
-本人の就業形態
正規雇用者 0.056 0.042
非正規雇用者 -0.032 -0.033
役員・自営業従事者 -0.062 -0.049
非就業者 0.037 0.040
週労働時間
35時間以下 -0.060 -0.088
35時間超45時間以下 -0.059 0.025
45時間超55時間以下 0.046 0.076
55時間超60時間以下 0.064 0.052
60時間超 0.082 0.039
有給休暇取得率
100%取得 -0.042 -0.034
75%取得 -
-50%取得 -
-25%取得 - 0.018
数%取得 0.095 0.077
有給休暇なし -0.037 -0.038
通勤時間
通勤時間なし -0.050 -0.057
1分以上30分未満 -
-30分以上1時間未満 - 0.016
1時間以上2時間未満 0.020 0.019
2時間以上 -
-仕事の柔軟性
勤務日が選べる -0.075 -0.073
勤務時間が選べる -0.079 -0.085
働く場所が選べる -0.062 -0.058
詳細は注釈参照。
有意確率5%以下の数値のみを表記。
本人の年収は実数、仕事の自由度は5段階の変数、他項目は ダミー変数である。
者がいる人,子どもがいる人,子どもの人数が 多い人,大学・大学院卒の人には両立ストレスが
小さい人が多いことがわかる(負の相関関係)。一
方で,未就学児がいる人と最終学歴が大学・大学 院卒以外の人では両立ストレスが大きいことがわ
かる(正の相関関係)。つまり,年齢,学歴,結婚,
子どもを持つこととワーク・ライフ・バランスの 実現度には正の相関関係があり,子どもが小さい と負の相関関係があることになる。
図表2より,両立ストレスと仕事状況の関係で
は,男性については本人の年収と両立ストレスに 負の相関関係があるものの,女性については図表
3より,本人よりも配偶者の年収の方が両立スト
図表3 両立ストレスと家庭生活状況の相関関 系
男性 女性
【家庭生活】 同居家族
配偶者と同居 -0.048 -0.042
親と同居 0.021 0.031
配偶者と親と同居 -
-配偶者の年収 - -0.068
配偶者の就業形態
正規雇用者 -
-非正規雇用者 -
-役員・自営業従事者 -
-非就業者 -
-有意確率5%以下の数値のみを表記。
配偶者の年収は実数、他項目はダミー変数である。 詳細は注釈参照。
レスと負の相関関係を持つことがわかる。男性は 自分自身の収入,女性は配偶者の収入がワーク・ ライフ・バランスの実現度と相関関係を持つと解 釈できる。
その他の状況については,男女ともに,正規雇 用者や長時間労働者と親と同居している人には,
両立ストレスが大きい人が多く(負の相関関係),
柔軟性が高い仕事に就いている人や配偶者と同居 している人には両立ストレスが小さい人が多い (正の相関関係)ことがわかる。特に女性の方が
男性よりも週労働時間が 35 時間以下であること
と両立ストレスの相関は強い。有給休暇取得率と
通勤時間については,有給休暇を100%取得して
いる人と通勤時間がない人については負の相関関 係,有給休暇をほぼ取得できていない人と通勤時
間が1時間以上2時間未満の人については正の相
関関係,その他のケースでは相関が弱い結果とな った。有給休暇取得については,男性の方が相関 は若干強い。配偶者の就業形態は,男女ともに高 い相関は見受けられなかった。
図表4 順序ロジット分析の結果(基本属性のみ)
係数 標準偏差 t値 有意確率
【基本属性】
男性ダミー -0.353 0.029 -12.19 0.000
年齢 -0.041 0.002 -20.82 0.000
配偶者ダミー -0.258 0.048 -5.40 0.000
子どもの人数 -0.005 0.019 -0.28 0.778
未就学児ダミー -0.133 0.046 -2.87 0.004
カットポイント
/cut1 -5.305 0.116 -45.60 0.000
/cut2 -3.361 0.110 -30.53 0.000
/cut3 -1.605 0.107 -14.94 0.000
/cut4 -0.081 0.108 -0.75 0.453
サンプルサイズ ウェイトバックなし ウェイトバックあり
18,203 13,216
補足2 推定結果はウェイトバックしたものである。
補足1 被説明変数は、両立ストレスの感じ方(5段階)である。
両立ストレスにどのような影響を与えるのかを分
析する。図表4と図表5は順序ロジットモデルの
結果である。図表4は基本属性のみの結果であり,
図表5は仕事状況と家族生活状況を加えた結果と
なる。配偶者の年収については,配偶者ダミーと の多重共線性を考慮して分析には含めていない。 分析はウェイト付き順序ロジットモデルを用いて
いるため,係数の解釈はそのまま行えないものの,
どのような人の方がより両立ストレスを感じるの かは解釈できる。
図表 4 より,(ア)女性の方が男性よりも両立
ストレスを感じやすい,(イ)年齢が低い方が両立
ストレスを感じやすい,(ウ)未婚者の方が両立ス
トレスを感じやすい,(エ)未就学児がいない子ど
もありの人の方が両立ストレスを感じやすいこと
がわかる。(エ)のみ,表 1 とは異なる結果とな
った。しかし,配偶者ダミーと未就学児ダミーの 交差項を加えたところ,統計的な有意性はなくな
った6。つまり,未就学児がいることは,両立スト
レスに影響を与えないと解釈できる。
図表 5 より,仕事状況については,(オ)長時
間労働になればなるほど両立ストレスを感じやす
い,(カ)有給休暇の取得率が高ければ高いほど両
立ストレスを感じやすい,(キ)通勤時間が長い方
が両立ストレスを感じやすいことがわかる。年収
は図表2と異なり,両立ストレスに影響を与えな
い結果となった。つまり,仕事の柔軟性の項目と 合わせると,働く場所よりも働く時間の方が両立 ストレスに影響を与えていると解釈できる。
家庭生活状況については,(ク)配偶者と同居し
ている方が両立ストレスを感じにくい結果となっ
た。また,同居家族の状況ダミーを加えることで,
配偶者ダミーの統計的有意性がなくなり,「結婚し
ているかどうか」よりも「結婚していてかつ同居 しているかどうか」の方が両立ストレスに影響を 与えると考えられる。親との同居や配偶者かつ親 との同居は統計的に有意な結果とはならなかった。 つまり,親と同居することによって,親が家事・ 育児を分担し,家庭生活での負担が軽減され,両 立ストレスが軽減されるとは限らず,親よりも配 偶者の方との同居の方が両立ストレスの軽減に寄 与するということになる。
以上より,両立ストレスと個人の属性・状況と の関係性を検証した結果,両立ストレスがワー ク・ライフ・バランスの実現度を表しているので あれば,ワーク・ライフ・バランスの実現度が高 い人は,以下のような場合であると考えられる。
イ) 女性よりも男性 ロ) 年齢層が高い
図表5 順序ロジット分析の結果(基本属性,仕事状況,家庭生活状況)
係数 標準偏差 t値 有意確率
【基本属性】
男性ダミー -0.601 0.042 -14.29 0.000
年齢 -0.038 0.002 -18.20 0.000
配偶者ダミー 0.075 0.099 0.76 0.450
子どもの人数 -0.006 0.020 -0.29 0.772
未就学児ダミー -0.078 0.048 -1.62 0.104
【仕事】
本人の年収の対数値 -0.008 0.023 -0.35 0.724
本人の就業形態(基準:正規雇用者)
非正規雇用者ダミー 0.082 0.047 1.75 0.081
役員・自営業従事者ダミー -0.055 0.060 -0.91 0.364
週労働時間(基準:35時間以下)
35時間超45時間以下ダミー 0.103 0.045 2.28 0.023
45時間超55時間以下ダミー 0.341 0.057 6.04 0.000
55時間超60時間以下ダミー 0.587 0.085 6.92 0.000
60時間超ダミー 0.726 0.094 7.71 0.000
有給休暇取得率(基準:100%取得)
75%取得ダミー 0.057 0.052 1.10 0.273
50%取得ダミー 0.081 0.056 1.43 0.153
25%取得ダミー 0.174 0.056 3.09 0.002
数%取得ダミー 0.378 0.052 7.21 0.000
有給休暇なしダミー 0.024 0.051 0.47 0.638
通勤時間(基準:1分以上30分未満)
通勤時間なしダミー 0.038 0.081 0.46 0.643
30分以上1時間未満ダミー 0.040 0.035 1.14 0.253
1時間以上2時間未満ダミー 0.124 0.052 2.39 0.017
2時間以上ダミー 0.350 0.183 1.92 0.055
仕事の柔軟性(5段階)
勤務日が選べる -0.040 0.017 -2.40 0.016
勤務時間が選べる -0.039 0.019 -2.05 0.041
働く場所が選べる -0.014 0.017 -0.82 0.412
【家庭生活】 同居家族
配偶者と同居ダミー -0.279 0.091 -3.05 0.002
親と同居ダミー 0.087 0.093 0.93 0.354
配偶者と親と同居ダミー -0.033 0.103 -0.32 0.747
カットポイント
/cut1 -4.680 0.179 -26.14 0.000
/cut2 -2.685 0.175 -15.36 0.000
/cut3 -0.890 0.173 -5.13 0.000
/cut4 0.667 0.175 3.82 0.000
サンプルサイズ ウェイトバックなし ウェイトバックあり
補足2 推定結果はウェイトバックしたものである。
補足1 被説明変数は、両立ストレスの感じ方(5段階)である。
12,445 17,133
ニ) 既婚かつ配偶者と同居している
イ)とロ)については,一般的に,女性の方が 男性よりも就業率が低い,離職しやすい,家事・ 育児の負担率が高いなどの傾向があることからも 整合的な結果であると言えるだろう。ハ)は,長
のようなことを通して,ワーク・ライフ・バラン スの実現度に影響を与えているのかは考察できな い。また,配偶者を含め家族との関係性以外にも ワーク・ライフ・バランスの実現度を高める重要 な要素があると考え,次の分析では,家族以外に どのような生活面での要素がワーク・ライフ・バ ランスの実現に影響を与えるのかを検証,考察す る。
Ⅳ-2.ワーク・ライフ・バランスの実現度が高い
生活面の要素とは
ワーク・ライフ・バランスの実現度を高めるた めには,どのような生活面の課題があるのだろう か。
ここでは,引き続き両立ストレスの感じ方をワ ーク・ライフ・バランスの実現度の代理指標とし て分析を行う。分析には両立ストレスの原因項目 を用いる。両立ストレスの原因については,両立 ストレスを感じている人にのみ聞いているため, 両立ストレスを感じなかったと回答した人は分析 対象に含まれない。つまり,ここでは,ワーク・ ライフ・バランスの実現度が低い人たちにおいて, どのような原因によってワーク・ライフ・バラン スの実現が妨げられているのかを明らかにするこ
とで,ワーク・ライフ・バランスの実現度を高め る生活面の課題を明らかにする。
図表6から図表8までは,両立ストレスの原因
についてコレスポンデンス分析を行った結果であ る。▲は仕事関連の原因,●は家庭生活関連の原 因,◆は全体および男女別の分布,■は両立スト レスの大きさの分布を表している。
図表6は,全体および男女別に両立ストレスの
原因をプロットしたものである。まず,両立スト
レスの原因は,仕事関連ストレス,家事ストレス,
子育てストレス,健康・介護ストレスの4つのカ
テゴリーに分けられ,男女の分布から男性の方が 仕事によってストレスを感じ,女性の方が家事に
よってストレスを感じていることがわかる。また,
子育てによるストレスと健康・介護によるストレ スは男女間で大きく変わらないこともわかった。 つまり,ワーク・ライフ・バランスの実現を妨げ ている要因として考えられる項目のうち,仕事と 家事については,男性にも女性にも影響を与える ものの,仕事はより男性に対して,家事はより女 性に対して影響を与えていると解釈できる。ここ では,女性に比べると男性の課題はより仕事寄り であることがわかるものの,男性にとっての生活 面の課題が何であるかは明確ではない。
図表7 男性の両立ストレスの大きさと原因(コレスポンデンス分析の結果)
図表8 女性の両立ストレスの大きさと原因(コレスポンデンス分析の結果)
ついて,両立ストレスの大きさ別に両立ストレ スの原因の分布をみてみた。両立ストレスの大き さの分布より,上方にある原因の方が下方にある 原因よりも両立ストレスを大きくさせると考えら れる。つまり,上方にある項目こそ,男女それぞ れにおいて両立ストレスを大きくさせる原因であ り,言い換えると,ワーク・ライフ・バランスの 実現を妨げている要因となる。
図表7より,男性については,両立ストレスの
原因は,対人ストレス,仕事関連ストレス,配偶
者・子育てストレス,親戚・近所付き合いストレ
スの4つのカテゴリーに分類できることがわかる。
同様に,女性については,図表8より,対人スト
レス,家事ストレス,子育てストレス,親戚付き
合い・介護ストレスの4つのカテゴリーに分類で
きる。図表6で確認した通り,男性にとっては仕
事が,女性にとっては家事が重要な両立ストレス の要因であることがわかる。
の重要な課題であることがわかる。対人ストレス の中でも,男女ともに親・親戚との関係が両立ス トレスをより大きくさせる要素であることがわか る。他にも,男性については近所・子どもを通じ た人間関係が両立ストレスを大きくさせることが わかる。配偶者・パートナーとの関係は,両立ス トレスの大きさにかかわらず両立ストレスに影響
を与える重要な要因であると解釈できる。つまり,
ワーク・ライフ・バランスの実現を妨げている生 活面の要因は,さまざまな対人関係ということに なる。
対人関係がワーク・ライフ・バランスの実現を 妨げるとはどういうことなのだろうか。また,ワ ーク・ライフ・バランスの実現度を高めるための 対人関係における課題とは一体どのようなものだ ろうか。
第15回出生動向基本調査によると,第一子が3
歳になるまでに夫妻の母親から日常的もしくは頻
繁に子育ての手助けを受けた割合は約5割であり,
第一子が1歳のときに就業していた場合に限定す
ると約6割弱になることがわかっている。これは,
子どもがいる女性の就業継続には母親の手助けが 重要な役割を果たしているということであり,た とえば、子育てにまつわる自分もしくは配偶者の 母親との関係性がストレスになっているのかもし れない。また,未婚の男女にとっては,晩婚化し ているとはいえ,親や親戚からの「仕事よりも結 婚や育児を重視してほしい」という期待はストレ スになるだろう。
近所や子どもを通しての人間関係から感じるス トレスの原因については,働く母親への無理解な どが考えられる。たとえば,働く母親にとって,
子どもの学校に関する集まり(PTAなど)が平日
の日中に開催される場合,毎回参加することが難 しいと,それがストレスになるかもしれない。
配偶者・パートナーとの関係については,性別 役割分業が起因している可能性が考えられる。た とえば,男性の育児参加が推進されている昨今, 男性にとっては配偶者・パートナーからの家事・
育児を行うことへの過剰な期待がストレスになっ ているかもしれない。女性にとっては,配偶者・ パートナーと同じ時間だけ働いても,依然として 配偶者・パートナーよりも家事・育児にかかわる 時間が長いことがストレスになっているかもしれ ない。
「全国就業実態パネル調査」では両立ストレス に影響を及ぼす対人関係の詳細は把握できないた め,これらの仮説を検証することはできない。し かし,多様な生活スタイルを受け入れ,さまざま な働き方への理解を示すことが,ワーク・ライフ・ バランスの実現度を上げるために寄与する可能性 は大いにありうる。たとえば,男性の「育児」へ の理解を深めるのと同時に,配偶者の「男性の働 き方」への理解を深める機会を設けたり,女性の ワーク・ライフ・バランスの実現度を上げるため に,配偶者の「家事・育児」への理解を深めるだ
けではなく,「家事や育児は女性の仕事」や「結婚
や子どもがいる女性は仕事を辞めた方が良い」な どの価値観から「働く女性・母親」への理解を深 める機会を設けたりすることも効果的なのかもし れない。多くの先行研究でも,個人の経験よりも 社会的,歴史的な考えの方が仕事と生活の関係へ
影響を及ぼすことを示している(Ozbilgin et al.
2011)。ワーク・ライフ・バランスを実現するた
Ⅴ.おわりに
本稿では,ワーク・ライフ・バランスの実現に は仕事と同じだけ生活も重要であると考え,①ワ ーク・ライフ・バランスの実現度が高い人はどの ような人なのか,②ワーク・ライフ・バランスの 実現度を高めるためにはどのような生活面の課題
があるのか,の2つの問いについて分析を行った。
ワーク・ライフ・バランスの定義を「人々が希
望した働き方や生活を選択できている状態」とし,
ワーク・ライフ・バランスの実現度の代理指標と して「仕事と家庭生活の両立ストレス」を用い, 両立ストレスをより感じなければ,ワーク・ライ フ・バランスの実現度は高いと解釈した。 その結果,ワーク・ライフ・バランスの実現度
が高い人は,女性よりも男性,年齢層が高めなど,
直感的に理解できる特徴が見受けられた。仕事に 関しては,労働時間の短さ・休暇の取りやすさな ど,労働時間の柔軟性が高い人の方がワーク・ラ イフ・バランスの実現度が高いことを示した。こ れは,長時間労働の改善や年次休暇取得促進など の政策が有効であることを意味しているだろう。 生活に関しては,データの関係上,ワーク・ラ イフ・バランスの実現に影響を与える要因把握に 制限があるため,配偶者や親との同居がどれぐら いワーク・ライフ・バランスの実現に寄与するの かについて検証した。分析より,配偶者との同居 はなにかしらのプラスの効果をもたらし,親との 同居は効果がないという結果となった。
さらに,両立ストレスの原因を用いることで, 家族との同居以外にどのような生活面の課題があ るのかを考察した。その結果,男女ともに対人関 係が重要な課題であることがわかった。他にも男 性では仕事関連,女性では家事が両立ストレスを 高める要因であることが示された。これらの要因 が,男女の両立ストレス(ワーク・ライフ・バラ ンスの実現)に影響を与えるメカニズムとして, 多様な働き方や生活スタイルへの無理解が両立ス トレスを高めている(ワーク・ライフ・バランス
の実現を妨げている)のではないかと考察した。
仮に,このようなメカニズムが正しいのであれば,
仕事へのアプローチは環境などの状況改善を通し てワーク・ライフ・バランスの実現に貢献し,生 活へのアプローチは意識的な状況改善を通してワ ーク・ライフ・バランスの実現に貢献すると考え ることができ,男女問わず意識的な状況改善への 取り組みも重要になる。具体的な取り組みの一例 として,日本で根付いている価値観「伝統的な性
別役割分担をベースとした男女の働き方」から「伝
統的な働き方を含めた多様な働き方」への理解を 促進することが挙げられる。これは,女性だけで はなく男性の働き方についても視野を広げていく ことで,男女問わずさまざまな働き方を選択しや すくなり,ワーク・ライフ・バランスの実現に繋 がることを意味している。
本稿では,ワーク・ライフ・バランスの実現に ついて,仕事重視の既存的な取り組みに加え,生 活へのアプローチも重要であると考え,分析を行 った。データの制約上,生活面の詳細な分析は行 えなかったものの,家族や周りからの理解が生活 面での課題であることを示唆する結果となった。 今後の展望として,より詳細な生活状況に関する データを用いて,ワーク・ライフ・バランスを実 現するためのメカニズム解明が挙げられる。
注
1 1日のうち睡眠・食事を含む個人的な時間に費やしている平均時
間を指す。
2 詳細は調査設計
(http://www.works-i.com/pdf/160701_JPSED_Sekkei.pdf)を参 照。
3 基本属性の変数は以下の通りである。年齢は実数,配偶者有無
はありを1とするダミー変数,子ども有無はありを1とするダミ ー変数,子どもの人数は実数,未就学児有無は6歳未満の子ども を持つ場合を1とするダミー変数,最終学歴はそれぞれの学校が 最終卒業校である場合を1とするダミー変数である。
4 仕事状況の変数は以下の通りである。本人の年収は実数,本人
らないを1とする5段階の変数である。
5 家族生活状況の変数は以下の通りである。同居家族は配偶者,
親,もしくはその両方と同居している場合を1とするダミー変数, 配偶者の年収は実数,配偶者の就業形態はそれぞれの形態である場 合を1とするダミー変数である。
6 配偶者ダミーの係数と有意確率(括弧内)は-0.255(0.000),
未就学児ダミーについては-0.108(0.465),交差項については-
0.025(0.862)である。
参考文献
国立社会保障・人口問題研究所,2016『第15回出生動向基 本調査結果の概要』
http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS15_ gaiyou.pdf (2016年9月23日)
Jesse S. Michel, Lindsey M. Kotrba, Jacqueline K. Mitchelson, Malissa A.Clark and Boris B.Baltes ,2011 “Antecedents of work-family conflict: A meta-analytic review,” Journal of Organizational Behavior, Volume 32, Issue 5, 689-725.
内閣府,2016,『仕事と生活の調和の実現に向けて』
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/towa/index.html (2016年 6月15日)
日本経済団体連合会,2015『ワーク・ライフ・バランスへ の取組状況』
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/083_gaiyo.pd f (2016年6月15日)
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http://www.oecdbetterlifeindex.org/#/11111111111 (2016年8月10日)
Ozbilgin M. F., T. A. Beauregard, A. Tatli and M. P. Bell ,2011 “Work-Life, Diversity and Intersectionality: A Critical Review and Research Agenda,” International Journal of Management Reviews, Volume 13, Issue 2, 177-198.
山口一男,2009,『ワークライフバランス―実証と政策提言』
日本経済新聞出版社。
―,2010,「常勤者の過剰就業とワーク・ファミリ